プロジェクトの基本情報
場所:山形美術館
期間:2025年9月5日(金)〜2026年2月15日(日)(休館日をのぞいて123日間)
内容:視覚障害者向けアプリ「ナビレンス」の設置
設置したコードの種類:有料版30コード(展示作品25、会場設備5)
他、お手洗いなどに無料のコードを設置
期間:2025年9月5日(金)〜2026年2月15日(日)(休館日をのぞいて123日間)
内容:視覚障害者向けアプリ「ナビレンス」の設置
設置したコードの種類:有料版30コード(展示作品25、会場設備5)
他、お手洗いなどに無料のコードを設置
有料版は1コードあたり600字を目安に学芸員の方にテキストをお願いした
ナビレンス使用に関してはイヤホンの貸出を準備したが、体験会中は音声を出して利用した
ナビレンス使用に関してはイヤホンの貸出を準備したが、体験会中は音声を出して利用した
用語解説
•社会的障壁/日常をおくる上で、障壁となるようなもの。物理的な物(小さな段差など)だけではなく、無関心や差別などでもおこるバリア。
•合理的配慮/障害がある人から、社会的障壁(バリア)を取り除いてほしい、という意見が伝えられたとき、行政機関や事業者などが、その人の特性や状況に合わせ調整、変更したり対応すること
•障害の社会モデル/多数派(マジョリティ)が社会で作り出している「障害(=社会的障壁)」を解消しようとする考え方。⇔個人モデル(医学モデル)では、医療や福祉の領域の問題として、個人の身体面、精神面に原因があり、障害を生み出しているという考え方。
•アクセシビリティ/利用者の障害の有無や年齢にかかわらず全ての人々が利用しやすくなるようにすること。*このレポートでは社会モデルの考え方をとるので、「障害」の表記を漢字にしています。
「ナビレンス」とは
「ナビレンス」はスペインで開発された視覚障害者向けアプリです。タグがどこにあるか正確にわからなくてもスマートフォンのカメラで周りをスキャンすればタグを読み取り、距離や情報が得ら れます。
QRコードに似たカラフルなタグは、他のコードにはない条件で読み取れる技術的な特徴が備わっ ています。ナビレンスのタグは、ユーザーの各個人に適したフォーマットや世界40言語を用いて有 益な情報(例えば、バス停での通過バスの路線情報、発着情報、バス停の情報、運行状況など)を得るのに役立ちます。
あらゆる環境やサービスへのアクセシビリティを改善し、より良い体験を提供します。
(ナビレンス ユーザーズマニュアルより)
QRコードに似たカラフルなタグは、他のコードにはない条件で読み取れる技術的な特徴が備わっ ています。ナビレンスのタグは、ユーザーの各個人に適したフォーマットや世界40言語を用いて有 益な情報(例えば、バス停での通過バスの路線情報、発着情報、バス停の情報、運行状況など)を得るのに役立ちます。
あらゆる環境やサービスへのアクセシビリティを改善し、より良い体験を提供します。
(ナビレンス ユーザーズマニュアルより)
詳しくはURLから公式HPをご覧ください https://www.navilens.com/ja/
ダウンロード・利用|完全無料
対応機種/ 対応バージョン|Android7以降 iOS13以降(2026.3 現在)
対応機種/ 対応バージョン|Android7以降 iOS13以降(2026.3 現在)
プロジェクトの概要
2024.12月「山形県の文化施設においてのアクセシビリティ向上を考える」研修会(主催:やまがたアートサポートセンターら・ら・ら)
2025.1月 「第6回 わたしとあなたの表現」(主催:米沢市)BeHereNow企画として、展示や会場の設備などに無料版のナビレンスを設置実験
2月 有料版のナビレンスを検討
3月 社会貢献基金に応募
5月 クラウドファンディングを実施
7月 資金調達の目処が立つ
8月 ナビレンス社と契約
9月5 日 山形美術館にナビレンスを設置スタート(協力:公益財団法人 山形美術館)
24日 ナビレンス体験会
11月7日、9日、13日、15日 予約制の体験会(全4回)
12月6日 対話型鑑賞会(協力:やまがたアートサポートセンターら・ら・ら、NPO 法人輝色)アイコサポート体験会(協力:損害保険ジャパン株式会社、株式会社プライムアシスタンス)
2026
1月23日 ナビレンスもつかった鑑賞体験会(追加実施)
2月15日 ナビレンスの設置終了
プロジェクトとレポートについて
グラフィックデザイナーの菊地純といいます。今回企画した団体の代表をしています。このレポートはデザイナーとして関わった視点で書かれています。今後このレポートをもとに、関わった皆さんとまたお話しする機会をつくり、新しい視点やプロジェクトが立ち上がることを期待しています。
デザイナーの関わりについて
デザインの視点は、非営利セクタ、NPO、福祉、行政といったところでまだまだ不足しており、まだまだ必要だと考えています。デザインの仕事のひとつは、人とひと、場所、ものの関係性をつないだり、つなぎ直すことです。どんなに良い企画をつくっても、必要としている人に届かなければ「ない」ことといっしょです。
視覚に障害があると、どうしても情報弱者になりがちです。情報の多くは「視覚情報」で届けられることが多く、どのようにしたら、視覚に障害のある方に必要な情報を届けることができるのか、デザイナーにとって大きな課題だと思っています。
はじまり
今回のプロジェクトは、2024年末の研修会に参加したことがきっかけです。オブザーバー参加されていた、上山市在住の木村清さんに出会い、ナビレンスを紹介いただきました。
ちょうど、このとき翌月1月の公募展の準備をしており、このアプリを使ってみることができないか、半ば勢いで無料版のナビレンスを設置しました。
無料版の設置と体験会を経て、やはり機能が限定された無料版では難しいことが分かりました。ナビレンス社としても無料版の展示への使用は非推奨とのことでしたが、丁寧に対応くださいました。
資金調達について
有料版の使用の検討もしましたがハードルはその費用です。行政や施設での導入検討のハードルも、「予算がない」というものでした。
でも予算がなければ探してくれば良いのではないか。今回のプロジェクトはおおよそ100万くらいの規模です。ポケットマネーには高いが、社会インフラとしては決して高くはないのではないか。
調達先も、社会貢献基金という公共性が高いもの。それだけでは足りなかったこともあり、クラウドファンディングを行いました。結果、プロジェクトへの(資金提供という)関わり方が広がることになりました。これはこれからの企画のつくりかた、資金調達や社会参加を考えるきっかけになるのではないでしょうか。
社会モデルの考え方
プロジェクトを進めるにあたり、できるだけ多くの当事者の方にお話を伺うようにしました。視覚に障害のある方だけではなく、さまざまなマイノリティ(少数派)の方の話を伺いました。「当事者のことは当事者が決める」という前提を、デザイナーの思い込みで勝手に進めてはいけない、そこは、はじめから気をつけるようにしました。
ナビレンスの設置について
今回、山形美術館さんにナビレンスの設置をいただいたのは、先ほどの研修会の会場だったということもありますが、せっかくですから出掛けて楽しい場所に設置したらどうか、という当事者からのアイディアでもありました。当団体もアート文化の側からの関わりでしたので、山形美術館でのプロジェクトの実施は嬉しいことでした。
体験会について
設置期間中に、追加も含め体験会を8回行いました。形式はさまざまで、ナビレンスを使用しないものもありました。対話型鑑賞会やアイコサポートというアプリの体験会といったものです。
このことは、プロジェクトの目的が「誰でも美術館を楽しめる」ということであり、ナビレンスはその手段にすぎないと考えたためです。
9月24日のナビレンスの体験会はグループごとに分かれ、代表の方がナビレンスを操作しナビゲートするというものでした。体験会後のお話の時間やアンケートでは、当事者の方からも晴眼者の方からも、おおむね肯定的な意見を多くもらいました。
期間中の修正
体験会の意見を受けナビレンスの設置を修正しました。
・展示作品のコードサイズを、3cmから5cmに
コードは大きさによって読み取り可能な距離がかわります。展示作品との鑑賞に適した距離を考え当初3cmで作成しましたが、いくぶん読み込みにくかったため、5cmに変更しました。
逆に大きすぎると、遠くのコードまで読み込んでしまい鑑賞に適さないのではないかと考えています。誘導に使う場合、展示案内に使用する場合など、目的によって適切な大きさはかわり、デザイ ン上大事な要素だと思われます。
・テキストの修正
テキストの内容は美術館の学芸員の方にお願いしました。大きさなど作品の状態がより分かりやすくなるよう、テキストを改良いただきました。
サイズとテキストの修正には追加料金などはかからず、速やかに変更修正することができました。
テキストについては、AIが機械音声で読み上げるため、聞き取りにくかったり、誤読も多くありました。AndroidとiPhoneでは読み上げが異なったり機種依存もあるようです。この点は今後の改良やAIの発達に期待したいと思います。
11月と追加した1月の体験会
11月の4回と1月の追加分では、視覚に障害のある方(木村さん)にナビレンスの操作をお願いし、晴眼者が後をついて対話型の鑑賞会の形をとりました。
・鑑賞体験の満足度が大事であること(ナビレンスの技術的な理解もしたいが)
見えない人も見える人も、体験会に参加した方がとても満足度が高く、口を揃えて楽しかったと言っていただけるのは、(作品が素晴らしいことはもちろんですが)誰かといっしょに鑑賞する体験 だったからのようです。作品を介した他者との対話が、日常にはない体験として刻まれたのではないでしょうか。
・受け身ではない参加の形
アンケート結果などでも「ナビレンスではなく、対話型鑑賞だけでいいのではないか」という意見をもらいます。そのちがいですが、ナビレンスの場合は当事者の方が自分から情報を取りに行くことができます。
このことは、社会参加を考える上でとても大きいのではないかと思います。受け身ではなく自分から情報をとり、働きかけることができる。見えないことで関係性が非対称になりがちだと気づかせてくれる事例ではないかと思います。
・見えないということを知るために
晴眼者は、どうしてもナビレンスコードを「目視」してスマホをかざしがちです。このアプリの最大の特徴は「見えなくても」おおよその方向に向けるだけで読み込んでくれることにあります。通常のQRでは位置がわからないと焦点の合わせようがありません。
「見えないとはどういうことか」視覚に障害のある方といっしょに鑑賞する体験が、ナビレンスだけではなく、障害の理解にもつながったと思います。どうしても人は、自分ごとではないことは自分で思っている以上に気がつきにくいものではないでしょうか。
見えないことを知るという点では、「設置期間を短くすれば予算が節約できたのではないか」という意見も頂戴しました。
まず、このプロジェクトが必要とする人に届くまでに通常よりもずっと時間と手間がかかります。そして、その情報を手に参加しようと思っても、行動に移すまでに同行援護の予約手配などで、とても時間がかかります。ですから今回のプロジェクトはできる限り設置期間を長くとりました。視覚に障害があるということは、情報弱者であり移動困難者でもあるということです。
アンケート結果から
設置期間中アンケートを74件いただきました。主な内訳です
・視覚に障害のある方が1割以上
ほか、一般、学芸員、福祉関係者、学生など
ほか、一般、学芸員、福祉関係者、学生など
・県外からの来場者は、東京都、神奈川県、宮城県、秋田県、福島県、新潟県、愛知県(一部アンケート外から集計)
全体にナビレンス体験の満足度は高く、継続は9割近くが賛成しています。
個別の意見としては、
・ナビレンスは晴眼者にとっても作品鑑賞の手助けになる
・40言語に翻訳することから海外の方の対応にもよい
否定的な意見では、
・写真撮影をしているのではないかと誤解されそう
・AI音声が聞き取りにくい
・テキストの内容が分かりにくい。(これは視覚に障害がある前提の伝え方と、学術的な作品の伝え方の2点があり、そのバランスは今後の課題と思われます)
アンケート結果ではありませんが、美術館の方のご協力もあり、特にクレームや混乱はありませんでした。体験会中も興味を持ってくださった方がアプリをダウンロードしてくださったり、海外の方が使用される事例もあったようです。
今後の課題
一番の課題は今後の設置にかかる維持費の目処がたっていないことです。30コードで月当たり2万円ほどがかかります。文化施設へのアクセシビリティ向上のための費用、社会インフラとしてどのように考えるかは、当事者だけの問題ではなく、社会モデルとして市民(マジョリティ)が考えていくことではないかと考えています。
今回はできませんでしたが、テキストの内容の作成を当事者の方、学芸員の方といっしょにワーク ショップ形式でできたら面白いのではないかと思っています。
鑑賞マナーとの兼ね合いですが、例えば腕章のようなものを貸し出す。カメラ付きのスマートグラスを貸し出すというのもいいかもしれません。
文化施設は誰にでも開かれているものです。でも、現状では利用しにくい人がまだたくさんいらっしゃいます。少数派の声を出しても良いか迷われている方もたくさんいるのではないでしょうか。マイノリティ(少数派)の小さな声を、聞き取り届けるような場や時間が必要ではないかと思っています。
一旦、ここでプロジェクトは終了しますが、未来に向けて、また動き出したいと思います。
ありがとうございました !(2026年2月末 菊地 純)